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「第4回講義」終了しました!〜冷凍した細胞で生命をつなぐ: 絶滅危惧種のタイムカプセル

第4回講義は国立環境研究所 生物多様性領域 生態リスク評価・対策研究室 室長の大沼 学先生をお招きし、「冷凍した細胞で生命をつなぐ: 絶滅危惧種のタイムカプセル ~小さな細胞で絶滅危惧種は守れるか?~」というテーマで実施しました。

突然ですが、現在どれほどの動物が絶滅の危機に瀕しているかご存じですか?
つくばキャンパスやオンラインキャンパスで受講している学生らからは、「100!」「1万!」「100万!」など様々な回答が寄せられました。正解は、なんと”100万種類”です。動物が絶滅の危機に瀕していることは知っていても、その数がこれほど多いことを知っている人は少ないのではないでしょうか。実際に現在、人類や地球は「第6の絶滅の時代」に突入したと言われており、これは非常に深刻な問題なのです。

大沼先生は、そのような絶滅危惧種の問題に取り組んでいます。先生はどのような経緯でこの研究を始めたのでしょうか?
大沼先生は、学生時代から野生生物やその保全について関心があり、大学で獣医の資格を取得されました。実際、知床国立公園の方々と関わりをもち、ヒグマやエゾシカ、キタキツネなどの調査や治療のお手伝いをされていました。
その後、海外でも仕事をしたいと考え、青年海外協力隊としてマレーシアのボルネオ島へ。オラウータンなどの野生動物を治療し森に返す仕事に携わったそうです。

しかし、これらの活動の中で大沼先生はある課題に直面しました。それは、治療して野生に返せる動物がいる一方で、とても弱ってしまいセンターで受け入れても命を救えない動物がいる、ということです。これをきっかけに、少しでも資料を残し、それを基にして動物の保全に役立つ研究を行いたいと考えるようになりました。
その後、絶滅危惧種の保全のためにはさらに獣医学を幅広く学ぶ必要があると考え、日本の大学院へ進学しました。大学院卒業後、大沼先生は日本の研究所で仕事をしていました。仕事をする中で、国立環境研究所で大沼先生がボルネオ島にいた際に構想していた、「絶滅危惧種の保全に役立つ資料の収集と保存」を行う活動が始まるということを知り、すぐにそちらへ移り本格的に研究活動に取り組み始めたそうです。

では、具体的にどのようにして「動物の資料を保存する」のでしょうか?
まずは、交通事故で死亡した動物を全国から集めます。皆さんも車を運転している際に、そういった動物を見かけたことがあるかもしれません。実はその中に、絶滅危惧種の動物が含まれていることがあります。それらの動物を解剖をし、死因や感染症の有無などを調べます。

そして、それらの動物の資料保存を行う方法の1つが「細胞培養」です。細胞培養では、ある1つの細胞を培養して増やし、それを凍らせて保存します。実は、死亡してから3日~5日経った後でも細胞は生きており培養することが可能です。このように、細胞培養は死亡してからでも実施することができるため、絶滅危惧種を保全するうえでとても重要なのだそうです。

それでは、このように保存した資料・細胞を使ってどのような研究をしているのでしょうか?
例の1つとして、絶滅危惧種である鳥類の、鳥インフルエンザへの感染実験があります。鳥インフルエンザは現在、鳥だけでなく、人間にも感染するとても危険な感染症です。培養した細胞を活用することで、ただでさえ個体数が減少している絶滅危惧種に直接感染させずとも、その感染のしやすさや感染した場合のリスクを調べることができるのです。このようにして、実際の現場では「この鳥は感染しやすいからしっかり感染対策をしよう」というように対策を行うことが出来ます。

他の方法としては、体細胞クローンというものがあります。これは、細胞の中にある「核」というものを抜きとり、卵子に入れてあげると新たに個体をつくることができる、というものです。実際に、ピレネーアイベックスという絶滅した動物では、その細胞の核を羊の卵子に入れて個体を復活させた研究があります。結果、生まれてすぐに死んでしまったそうですが、このように培養した細胞を使って個体を増やすということもできるのです。

また、将来的には、絶滅危惧種の細胞を鶏の有精卵に移植し、新たな個体を生み出すということも可能かもしれません。大沼先生は、「まだ実現はしていないがこれが可能になれば、実際に絶滅危惧種の細胞を使って個体を増やすことができるようになるかもしれない。皆さんの中に将来この分野の研究者になる人がいれば、ぜひ活用してほしい。もしかすると、絶滅してしまった日本産の動物を復活させられるかもしれない。」と仰いました。

現在、細胞保存を活用した絶滅危惧種の保全研究は、世界中で非常に盛んになっています。実際に、以前大沼先生が活動していらっしゃったマレーシアでも細胞培養の遺伝資源保存バンクの樹立が推し進められています。

講義の最後に大沼先生は、冷凍した小さな細胞でも、絶滅危惧種の生命を繋ぎ、守ることはできる、と改めて仰いました。培養した細胞を活用することは、その動物を復活させるだけでなく、感染症への罹患率・状態を調べるなど、その保全に役立たせることができます。学生らは、ほんの小さな細胞からでも絶滅危惧種を守ることができるということを、実際の研究事例を元に学ぶことが出来ました。

大沼先生、第4回講義ありがとうございました!