【第11期 夏の特別講義】
「最新恐竜学~中生代の恐竜から、現代の地球と私たちのことを考えてみよう~」
国立科学博物館
副館長
真鍋 真 先生
お待たせいたしました! 2024年8月5日に実施した「夏の特別講義」にご登壇いただいた、国立科学博物館 副館長 真鍋 真 先生より、皆さんの質問に対する回答が届きました!
真鍋先生の追加の特別講義、ぜひ読んで学んでみてください!
【国立科学博物館 副館長 真鍋 真 先生が、みんなの質問に答えます!】
★質問1. 恐竜かそれ以外の爬虫類かを見分けるのに、腰以外の骨しかなかったらどのようにしますか。
他の見分け方はありますか。
先日の講義の中で、兵庫県の化石で7月に新種として報告されたヒプノヴェナトルというトロオドン類のことをご紹介しました。
ヒプノヴェナトルは骨盤の部分が見つかっていないのですが、前あしや後ろあしにトロオドン類に特徴をもっているので、恐竜かどうかではなく、竜盤類・獣脚類・トロオドン類まで一気に絞り込めてしまいました。
もちろんヒプノヴェナトルの完全な全身骨格の化石が見つかったら、骨盤に穴を確認しなくてはなりませんよね。断片的な化石の場合、あるグループだけに進化したと考えられている特徴があれば分類を絞り込むことが出来ます。
そんな特徴に気がつけるかどうかは、研究者の腕の見せ所でもあります。
★質問2. 講義では、恐竜の名前の付け方について、男性が2人以上で見つけたら最後が「オルム」、女性が2人以上で見つけたら最後が「アルム」になると言ってましたが、男性と女性が一緒に見つけたらどうなりますか。
ラテン語の文法では、男性と女性が含まれる場合には「オルム」になるそうです。
ラテン語にお詳しい「恐竜学名大辞典」(北隆館, 2023)の著者の松田眞由美さんに教えていただきました。
→ ●資料 -orumが含まれた恐竜の種小名
★質問3. 恐竜研究は調査方法の進歩とともに、その内容が更新されていると思います。
先生が思う、こんな新しい調査方法があったら良いなとものがあれば教えて欲しいです。
強力なX線を照射することで、肉眼では見えなかった軟組織が見えてくることがあります。
(例えば:https://optinews.info/2017/05/11/dinosauria/ )
化石が発見されたら、発掘前にその周囲をX線を照射して、見えていなかった軟組織の部分を発掘途中で壊してしまったり、発掘し忘れたりするようなミスをしないようにしたいと思います
化石の一部が地表に露出していないと人間がその存在に気づけないのですが、崖をCTスキャンのように内部まで見られるような機械があったりすると嬉しいですよね。でもその分、発見の感激は薄れてしまうかもしれませんね。
★質問4. 講義では化石を発掘して研究していることが分かりましたが、化石になりにくい骨などはありますか。
小さな骨や柔らかい骨などは、化石が正しく認識される確率が低いと思います。
授業の中で、国立科学博物館の地球館地下1階に展示されているティラノサウルス(バッキーという愛称がつけられた化石)を紹介しました。胸のところの叉骨という骨が疲労骨折を繰りかえしていたという化石です。
叉骨や腹肋骨などは、恐竜が死んで内臓が腐敗したりする過程で、本来の位置からずれて化石になることが多いです。そのため、叉骨は長い間、肋骨に間違えられてしまっていました。
バッキーは胸部から腹部の骨がつながって見つかってくれたので、叉骨や副肋骨の並び方が確認できたことで、重要な化石になりました。
★質問5. 恐竜の研究が今の人類のために役立っていると学びました。
絶滅危惧種を絶滅させないためにわたしたちでもできることはありますか。
人間がこれだけ増えて世界中に分布していると、人間が影響を与えていない生物はほとんどいないのではないかと思われます。
その全てを保護することは出来ないのですが、絶滅の危機にあるとわかった生物がいたら、それをこれ以上減らさないようにする活動に協力することが出来ます。
それはアフリカの奥地に行って活動をするという意味ではなく、日常生活でも空調の使用を減らしたり、ゴミになるプラスチックなどの使用を減らしたり、飛行機での移動を少なくすることなどを世界中の人たちが取り組んでいけば、いまよりもベターな世界になるはずです。
「地球や生物のために何かをしたい」という気持ちをみんながもつことが大きな一歩になっていくと思います。
一緒に頑張りましょう。
★質問6. 真鍋先生にとって、恐竜はどんなそんざいですか。
また、先生が思う恐竜の魅力を教えてほしいです。
中生代には恐竜が世界中に分布していて、現在は鳥としてその進化が続いています。
恐竜に興味や関心のあるひとたちは世界中にいます。もちろんライバルや気の合わない研究者もいますが、世界中に好きなことが同じで、語り合える仲間がいることが財産だと思っています。ただの石のような化石であっても、何かに気がついてちゃんと研究することによって、新しい発見や気づきが得られることがあります。
「あ、そうだったのか!」とわかった瞬間こそが学問をやっている喜びだと思います。そんな発見は個人的な経験に過ぎないのですが、その発見が世界で初めてだったりすることもあります。
★質問7. 恐竜のメラノソームの大きさ、形、配列は、何を調べるとわかるのですか。
鳥は羽やDNAを調べればわかると思うのですが、恐竜は化石の何を調べるのですか。
メラノソームのように小さくて繊細な組織でも、化石にその形がのこってくれることがあります。
羽毛恐竜の羽毛を顕微鏡で見ていた人が、その表面に小さなツブツブを見つけました。なんだかわからなかったので、同じ倍率で現代の鳥類の羽毛を見たら、それがメラノソームだったということがわかりました。
羽毛化石の表面にメラノソームが残っていること自体が珍しいので、色や模様がわかった恐竜はまだ10種類くらいなのですが、良い化石であれば色や模様までわかることは大きな進歩でした。
★質問8. ヘック兄弟がヘック牛(古代の牛、オーロックスをいろいろな家畜牛の品種をかけ合わせて作った牛)を作ったように、鳥やトカゲやワニなどの遺伝子をかけ合わせて、恐竜を作ることはできないのでしょうか。
今後恐竜が復活させることはできると思いますか。
DNAはA、T、G、Cという4つのアルファベットでつづられた情報なので、時間の経過とともにDNAが劣化するとその並び方がずれてしまいます。
-5度で保管しても、680万年経つとその配列は乱れてしまうというシミュレーション結果があります。
6600万年以上前の恐竜の正しい配列を復元するのは難しそうです。個々の遺伝子の働きを解明していく中で、現代の鳥類の卵の中で、羽毛をつくる遺伝子のスイッチを切ることによって、全身がウロコの鳥類を孵化させる研究が行われていたりします。
★質問9. 恐竜がもし絶滅していなければ今頃地球の環境や生態系はどのようになっていたと思うかを教えてほしいです。
その後も恐竜は進化を続けていたでしょうから、ティラノサウルスやトリケラトプスが現在も生息しているようなことはないでしょう。
授業の中で、トロオドンのような恐竜が絶滅しなかったら、頭が大きくなって、恐竜の中にもヒトのような直立二足歩行が進化したのではないかと考えたところから誕生した、ダイノサウロイドという架空の恐竜のことを紹介しました。
ダイノサウロイドのような進化が起こったかどうかはわからないのですが、恐竜が絶滅していなかったら、哺乳類が生態系の中心に躍進するようなことはなかったでしょう。そうしたら哺乳類は今でも、恐竜と棲み分けるように小さかったり、夜行性だったり、地下生だったりするものばかりかもしれません。
★質問10. 国立科学博物館で保管されているものを守っていくのに一番大変なことはなんですか。
現代の動物や植物の乾燥標本は適切な温度と湿度の環境下で保管しないと、虫に喰われてしまったりします。
授業ではクラウドファンディングの話はしなかったのですが、博物館の収蔵庫では、温度と湿度を一定に保つための光熱費に多額の費用が必要です。
冬の間は気温が下がるのですが、湿度も下がってしまいます。剥製がひび割れてしまうようなことも起こってしまうので油断できません。液浸標本もアルコールなどの補充をしなければなりません。
コレクションの異変に出来るだけ早く気がつくためにパトロールが必要ですが、パトロールという仕事にしてしまうのではなく、標本たちをチェックしている時にふと浮かんできた疑問を意識して、それが新しい研究につながったりするようにしたいと願っています。
真鍋先生の課外講義、いかがでしたか?
真鍋先生、お忙しい中、丁寧にご回答をいただきましてありがとうございました!
2024年9月15日現在
「恐竜学名大辞典」(北隆館, 2023)の著者の松田眞由美さんより
-orum
・家族の人たち
Tatankacephalus cooneyorum Cooney家
Pandoravenator fernandezorum Fernandez家
Fruitadens haagarorum Haaga家の多数のメンバー
Patagotitan mayorum Mayo家の人々
Siats meekerorum Meeker家
Overosaurus paradasorum Carlos Paradaとその家族
Maiasaura peeblesorum Peebles家
・男性2人
Chupkaornis keraorum 解良兄弟
Tatankaceratops sacrisorum Sacrison兄弟
Spinops sternbergorum C. H. Sternberg とL. Sternberg
・男性と女性
Koutalisaurus kohlerorum Terry KohlerとMary Kohler
Acheroraptor temertyorum James & Louis Temerty
Albalophosaurus yamaguchiorum 山口氏と山口さん
Shanweiniao cooperorum Carl & Lynn Cooper (Lynnは女性名(?)だと思います)
・会社名
Boreonykus certekorum Certek Heating SolutionsとBarendregt家の人々
・合体形
Arcusaurus pereirabdalorum Pereira + Abdala + -orum
Gargoyleosaurus parkpinorum Parker + Pinegar + -orum
Hudiesaurus sinojaponorum Sino- 中国 + Japon日本 + -orum
Omnivoropteryx sinusaorum Sin(o)- 中国+USA + -orum
-arum
・女性二人
Geminiraptor suarezarum Drs. Celina & Marina Suarez姉妹(双子)
その他
Tianchisaurus nedegoapeferima Ne (Neill), De (Dern), Go (Goldblum), A (Attenborough), Pe (Peck), Fe (Ferrero), Ri (Richards), Ma(Mazzello)『ジュラック・パーク』のスターたちの名前より。
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