【第4回講義】
「冷凍した細胞で生命をつなぐ: 絶滅危惧種のタイムカプセル ~小さな細胞で絶滅危惧種は守れるか?~」
国立環境研究所
生物多様性領域 生態リスク評価・対策研究室 室長
大沼 学 先生
お待たせいたしました! 2024年11月16日に実施した「第4回講義」にご登壇いただいた、国立環境研究所 大沼 学 先生より、皆さんの質問に対する回答が届きました!
大沼先生の追加の特別講義、ぜひ読んで学んでみてください!
【国立環境研究所 大沼 学 先生が、みんなの質問に答えます!】
★質問1. 絶滅しそうな植物や昆虫にも同じような方法を利用して、復活させたり未来につなげることはできますか。
国立環境研究所では植物や昆虫を対象に復活に向けた研究は行っていません。
しかし、植物は細胞ではなく、種を保存する活動が世界中で行われています。
例えば、ノルウェーにあるスヴァールバル世界種子貯蔵庫(種子バンク)が有名です。
昆虫については、国立環境研究所で絶滅危惧種の細胞保存の取り組みが始まりました。
★質問2. 永久凍土や化石などから細胞や核が取り出せれば、恐竜など昔の生物を蘇らせられるのではと思います。
実際はどうなんでしょうか。
生き物が生きていくためには、細胞の中にある核が完全に機能する状態で残っている必要があります。
しかし、永久凍土の中から見つかった動物の死体では、核が壊れてしまっている可能性が高いです。
さらに、化石には核や細胞そのものが残っていません。将来、壊れた核を修復する技術が開発されるかもしれません。
その場合、永久凍土から見つかった動物の核を使って昔の動物を蘇らせることができるかもしれません。
ただし、そのようなことが本当に必要なのかや、現在の自然や生態系にどう影響するのかを、よく考えて議論する必要があります。
★質問3. 冷凍した細胞を定期的に解凍して、生きているか確認しているということでしたが、解凍と冷凍を繰り返すと細胞が悪くならないでしょうか。
食品だと解凍と冷凍を繰り返すと悪くなるので気になりました。
おっしゃる通り、凍結と解凍を繰り返すと細胞の状態が悪くなってしまうことがあります。
ですので、私たちは毎年解凍するのではなく、研究に使うときに合わせて細胞が生きているかどうかを確認しています。
これまでの例では、だいたい5年から10年おきに解凍して確認することが多いです。
食品と違うのは、細胞を凍結する際に特別な方法や液体(凍結保存液)を使って、細胞を守る工夫をしていることです。
このおかげで、細胞が壊れることなく凍結保存が可能となっています。
★質問4. 細胞は、生物が死んだ後も生きているというお話がありましたが、細胞は生物が死んだ後どのくらい生きているのですか。
また、生物が死んでも細胞が生きている理由は分かっていますか。
この質問については、実際に実験をしたことがあります。
例えば、ニワトリの皮膚を切り取って保存用の液体に入れておいたところ、3週間後でもその細胞を増やすこと(細胞培養)に成功した例があります。つまり、生き物が死んだ後でも、一部の細胞はしばらくの間生き続けることができます。
では、なぜ生物が死んでも細胞が生きていられるのでしょうか?
これは私も詳しくは分かりませんが、動物が死ぬと血液が流れなくなって酸素や栄養が細胞に届かなくなります。
それでも、細胞は活動を少しお休みするような形で、できるだけ生き延びようとするのかもしれません。
★質問5. 1個体だけ復活できても、子どもがつくれないので、いずれ全滅してしまうと思いますが、オスメス1体ずついれば保存できたと言えますか。
それでも孫が作れなくて困りませんか。
オスとメスが1個体ずついれば、子どもを作ることは可能です。
ただし、その後、親と子どもや子ども同士で子どもを作り続けていくと、だんだん健康な子どもが生まれにくくなります。
これは、同じような遺伝子を持つ親どうしで子どもを作ると、遺伝子的に多様性が減ってしまうからです。
そのため、国立環境研究所では、最低でも50個体分の細胞(オス25個体、メス25個体)を保存することを目標にしています。
こうすることで、できるだけ多くの遺伝子を残し、将来健康な子どもや孫を作れる可能性を高めることができます。
★質問6. 保存した細胞から再生する場合、自然ではなく人間の手を加えることで遺伝子や細胞に異常が発生することはありますか。
保存した細胞を使って再生する場合、確かに人間の手を加えることで遺伝子や細胞に異常が発生する可能性はあります。
例えば、細胞を操作する途中で遺伝子が壊れてしまうことや、何か小さなエラーが起きることがあります。
ただし、大きな異常が発生した場合、その細胞から生まれる個体が育たなかったり、生まれてもすぐに亡くなってしまうことが多いです。
そのため、異常が次の世代へ引き継がれる可能性はあまり高くないと考えています。
それでも、異常を防ぐために、できるだけ慎重に細胞を扱うようにしています。
★質問7. ニワトリの卵からトキを復活させる研究があるとおっしゃっていましたが、その復活させたトキは本当に絶滅してしまった「トキ」になるのでしょうか。
特殊な技術でニワトリの精巣と卵巣の中にトキの精子や卵になる細胞が含まれる状態にします。
そのような状態にしておくとニワトリの体内ではトキそのものの精子や卵が作られます。
それらが受精すると純粋なトキが卵からかえります。
★質問8. 動物の赤ちゃんからとった細胞とおじいちゃんからとった細胞は同じですか。
また、死んでしまった生き物の細胞を培養するとき、死んですぐの細胞と少し時間がたってからの細胞で違いはありますか。
赤ちゃんからとった細胞とおじいちゃんからとった細胞は少し違います。
その違いの一つは、細胞が分かれて増えていく回数です。
赤ちゃんの細胞はたくさん分かれて増えられるのに対して、おじいちゃんの細胞は分かれる回数が少なくなっています。
これは、細胞が年をとると少しずつその能力が弱くなってしまうからです。
また、死んでしまった生き物の細胞を培養するとき、死んですぐの細胞と少し時間がたった細胞で違いが出ることもあるかもしれません。
例えば、死んで時間がたった細胞は、酸素や栄養がなくても少しの間生きられる強い性質を持っている可能性があります。
★質問9. 絶滅危惧種を復活させる方法を人間にも応用することはできますか。
また、もし可能であっても、やってはいけないこともあるのではと思います。
歯止めをかけることはできますか。
絶滅危惧種を復活させるための技術を、人間に応用できる可能性は確かにあります。
ただし、人間にそのような技術を使うときには注意が必要です。
人類全体に大きな影響を与えることなので、やってはいけないことや、どこまで許されるかをしっかり考えないといけません。
そのため、世界中で法律を作ったり、研究者たちがルールを決めたりして、この技術がむやみに使われないように歯止めをかけています。
例えば、勝手に人間の赤ちゃんを作り出すような実験は禁止されています。
このような決まりによって、技術が安全で正しい目的に使われるように守られています。
★質問10. マンモスを復活させるニュースがありましたが、前向きではない意見も多いと思います。
絶滅を防いだり、人間が絶滅させたもの、そうではない生物全てを復活させることに対して先生はどのようにお考えですか。
絶滅を防ぐことは本当に正しいのでしょうか。
絶滅した動物を復活させることにはいろいろな意見があります。そして、それぞれの研究者が復活させたい理由を持っています。
私は、その理由がしっかりしていて納得できるのであれば、復活に賛成することがあるかもしれません。
ただし、私が納得しても、他の人が納得するとは限りません。
そのため、絶滅した動物を復活させるときには、関係者全員でよく話し合い、同意することが大切だと思います。
また、絶滅動物を復活させる研究には、別の重要な意味もあると考えています。
例えば、マンモスを復活させる研究をすることで、壊れてしまった細胞の機能を回復させる技術が開発されるかもしれません。その技術を使えば、今まさに絶滅しそうな動物たちを救う手がかりが見つかる可能性もあります。
つまり、復活させることそのものだけでなく、今の動物たちを守るための研究としても価値があると思っています。
大沼先生の課外講義、いかがでしたか?
大沼先生、お忙しい中、丁寧にご回答をいただきましてありがとうございました!