【第11期 第1回講義】
「この世界をつくる究極に小さい粒、素粒子を測ってみよう~素粒子から宇宙のはじまりを調べる~」
早稲田大学理工学術院
研究院准教授 (加速キッチン代表)
田中香津生 先生
お待たせいたしました! 2024年6月22日に実施した「第1回講義」にご登壇いただいた、早稲田大学理工学術院 研究院准教授 (加速キッチン代表)田中香津生 先生より、皆さんの質問に対する回答が届きました!
田中先生の追加の特別講義、ぜひ読んで学んでみてください!
【早稲田大学理工学術院 研究院准教授 (加速キッチン代表)田中香津生 先生が、みんなの質問に答えます!】
★質問1. 小さい頃に1番、本当なのかな?と思ったことは、なんですか。
今回の講義でお話した「宇宙のはじまり」は特に本当なのかなと思ったものでした。この宇宙のはじまりにはとにかくたくさん「本当なのかな?」が詰まっていて、どうして何もないところから物質が生まれたのか、とかどうして時間という概念が生まれたのかな、とか私達人間にはまだまだ理解ができないことがたくさんあります。つまり本当かな、と思って色々調べてみると、また不思議なことや大人の話が信じられないことがたくさん生まれるというループが繰り返されるという点で、宇宙やこの世界がどのようにしてできたのかは魅力ある不思議だと思います。
★質問2. 原子や粒子は、どのくらい硬いんですか。また、どうして通っても何も感じないし穴があかないんですか。
爆発すると、壊れるだけじゃなく、新しいものも生まれるのはなぜですか。
そもそも人間はどういうときに「硬い」と感じるかを考えると良いと思います。それは粒子のつながりが強くて、なかなかばらばらにならないときではないでしょうか。つまりそれ以上分割できない素粒子は「つながり」がないため硬さを考えることができません。 つまり人間はついつい素粒子を「丸いかたまり」と想像しますが、そもそも「かたまり」と考えている時点で分割できない素粒子ではない形で想像してしまっているので、そのあたりで誤解が生まれてしまいます。 例えば私達の体の皮膚も「皮膚呼吸」という形で空気を通していますし、何も通さないと思う壁も素粒子レベルのミクロな世界ではすかすかでいろんなものが通り抜けられるようになっています。 粒子と反粒子が衝突して対消滅すると、そのエネルギーから新しい粒子や電磁波が生まれます。これは私達にとっては不思議なことですが、逆に「どうして新しいものが生まれること人は不思議と思うのだろう」という事を考えてみるのも面白いです。 それは私達の身近な世界であまりなにもないところから新しいものが生まれることがないからだと思います。一方ミクロな世界では新しいものが生まれたり、本来通り抜けられないところを粒子が通り抜けたり全く私達の常識とは異なることばかりです。 そんなときに無理矢理私達の常識でミクロの世界を理解しようとするのは、宇宙人の文化を私達の常識で理解しようとするぐらい無理があるものです。そんなわけで、研究者は日常の常識の囚われず、一旦新しいものがなにもないところから生まれる「不思議な常識や文化」を受け入れてそれを理解していて、そういう考え方もいいかもしれません。
★質問3. 無から物質を作ったときにドッペルゲンガーができると言っていましたが、どちらが本物でどちらがドッペルゲンガーなのかをどうやって見分けるのでしょうか。
ドッペルゲンガーのもう一方は、 ・この世界の通常の物質とぶつかると消えてしまう ・電荷(プラスやマイナスの電気)がひっくりかえっている という違いがあることがわかっているので実験的には見分けることができます。例えばプラスの電荷に近づくものを集めたりすることで、片方だけを集めることができたりします。
★質問4. 素粒子や宇宙線の研究をすると、古墳以外にどんな事がわかったり、できる様になりますか。
素粒子同士がぶつかるエネルギーで発電する事はできますか。できるとすれば、将来火力発電や原子力発電に変わることができますか。
そもそもこの宇宙や世界がどのように生まれてできているのかを理解しようと思ったら素粒子や宇宙線の研究は不可欠だと考えています。つまり私達の世界を知るというとても大事なことのために研究しているというところがあります。 私達の世界にどのように役に立つのか、という意味でもたくさんあります。原子力発電ももともと素粒子の研究から発展して生まれたものです。そのほか例えばこのような素粒子の研究で使われていた素粒子の加速器を使って、ガンに向かって打つことで、ガンを治療する「粒子線治療」というものがあります。 先生は好きなものを見つけて、それに集中して進んできたと思います。
★質問5. 途中、色々な誘惑があったと思いますが、そういうものに出会ったとき、どういうことをおもいましたか。
あまり「好きになって夢中になるもの」と「誘惑」を区別しすぎないことも大事だと思います。私も宇宙や素粒子に6歳のときに興味をもちましたが、小学校や中学校の理科はあまり興味を持てなくて、しばらく全然関係ないこと(当時の感覚では誘惑に相当するもの)ばかりに夢中になっていました。例えば中学校ではオセロに興味を持ってオセロの大会に参加したり、お寺に興味を持って奈良の薬師寺にずっと泊まり込んでお坊さんといっしょに生活したりしていました。その他にもその時々に夢中になったものがたくさんあるのですが、高校生になって物理を勉強したところ面白く感じて再び、素粒子の研究を心ざるようになりました。 結局自分は何が夢中になれるのかを事前に分かることは難しいので、あまり自分に必要なことと関係ないことを区別しすぎずにいろんなことに一生懸命担ってみると良いと思います(周りに迷惑をかけたり、自分の体を無理しすぎない範囲で)。実際私も少しオセロにお仕事をする機会があったりもするのですが、当時はそんな形で仕事に生かされるとは思っておもらず、何が自分の糧になるのかはわからないものだと思っています。
★質問6. 質問コーナーでは素粒子は体には影響はないんですかと質問していた人がいたけど、素粒子は地球に害をもたらしますか。それとも地球温暖化など対策のようなことはできるのですか。
通常では宇宙線が地球に決定的な影響を与えることはないと思います。極端な例として、地球にとても近い星がガンマ線バーストという爆発を起こして大量の放射線が地球に降り注ぐ場合、地球の生き物に影響を与える可能性がありますが、現状そのような近傍でそのような爆発を起こしうる星は見つかっていないと思います。
★質問7. 古墳の中を調べるのに使用していましたが、宇宙線を活用した技術がさらに発展した場合、どのようなことに活用してほしいと考えているのでしょうか。
宇宙線の特徴はいつでもどこでも降り注ぐことで、これを活用した技術が発展するとオモシロイと思っています。例えばGPSのような宇宙線を利用した位置情報測定技術や、無作為に宇宙線が降り注ぐ特徴を生かした暗号技術がここ2,3年論文で報告されています。
★質問8. 学生であっても研究をしようと踏み出せたきっかけはなんですか。
こちらについては当日加速キッチンで高校生の時に行っていた素粒子探究について紹介をした貫輪美博さんから以下のように回答をもらいました。「加速キッチンの研究サポートに申し込み、選考に落ちたとしても失うものが無いと感じたからです。加速キッチン以外で興味のある研究を行えそうな場所を見つけられなかったのも、一歩を踏み出す要因となりました。講義で田中先生がおっしゃっていたように、特にローリスクハイリターンの機会を逃さないことで、予想外の成果や新たな繋がりを得られるので、気になることがあれば積極的にチャレンジしてほしいです。」
★質問9. 素粒子を使った調べものは宇宙以外になにかできますか。
素粒子そのものに関する研究は宇宙にかかわらずたくさんあります。そもそも素粒子にはどんな種類があるのか、どんな電荷(電気を帯びているか)のか、重さはどれぐらいなのか、など素粒子そのものに関する研究はどれも興味深いと思います。
★質問10. 自分は物理が苦手で、今回の講義でも素粒子を古墳に活用するというアイデアにわくわくを覚えた一方で、新たに素粒子を作る方法などがわからずたくさんの疑問が浮かび行き詰まってしまいました。何か物理を好きになれるアイデアなどがあったら教えていただきたいです。
やはり自分で検出器を作ってみたり、それを使って測定してみたり手を動かすことだと思います。現在の教育指導要領では高校生までに素粒子を勉強する機会はないので、全国のだれでも「疑問が浮かび行き詰まってしまう」と思います。それでも実際に自分で測定したり手を動かすことで、少しずつアイデアが生まれたり実感が出たりするのではないかと思います。とはいえ、検出器を扱えるような機会はほとんどなく、それを講義でも紹介した加速キッチンで中高生に提供しています。ぜひ加速キッチンに申し込んでみてください(https://accel-kitchen.com/)。
田中先生の課外講義、いかがでしたか?
田中先生、お忙しい中、丁寧にご回答をいただきましてありがとうございました!