第3回講義は東京大学大学院工学系研究科の西成活裕先生をお招きし、「なぜ混雑するのか? 〜渋滞のサイエンスと解消方法について〜」というテーマで実施しました。
突然ですが、みなさんは渋滞に巻き込まれたことはありますか?
普段道路を歩いている時、車を運転している時など渋滞にまきこまれることがあるかと思います。講義の冒頭、渋滞問題に関して、西成先生は途中の道が狭くなっている箇所の渋滞を紹介し、どのようにして解消できるかを学生に尋ねました。つくばキャンパスやオンラインキャンパスで受講している学生からさまざま意見が飛び交う中、西成先生は渋滞の原因が、道が狭くなっている点にあると説明しました。この狭くなる箇所を「ボトルネック」と言います。「ボトルネック」は、ボトルからキャップに向かって狭くなるペットボトルの上部に似ていることが由来です。この、ボトルネックがあることで混雑が起きます。それを踏まえ、解消方法は、①ボトルネックをなくすこと、②ボトルネックに入る量を減らすことだと教えていただきました。
次に、火事や地震などの緊急事態が発生した時に部屋のドアから混雑なく避難する方法を考えました。学生から、ドアの幅を広くすることや人がドアに一度にたくさん来ないようにするなどの案が挙げられましたが、西成先生はその他の方法として「出口をわざと邪魔してみる」という方法を紹介してくださいました。一見、障害物を設置すると避難に時間がかかると考えられますが、実際は障害物があることで、ボトルネックの解消方法として挙げられていた「入る量が減る」状態がドアの前で発生します。その結果、障害物を設置した方が早くドアから出ることができるのです。他にも、平泳ぎをすると、人同士の間隔を確保できるため、早く出ることができるといった興味深いアイデアを聞くことができました。
「人」の混雑に着目した後は、車の渋滞についての話題になりました。
初めに、道路の渋滞原因第2位の合流地点について学びました。車を運転したことがある人は、合流地点での渋滞を経験した人も多いのではないでしょうか。講義では、この問題を解決するための方法も紹介していただきました。その方法は、円滑に合流するための「ファスナー合流」です。ファスナー合流とは、衣類等の留め具に使用されるファスナーのように2車線を走っている車が交互に合流する方法です。ファスナー合流を促進するため、西成先生は合流地点から一定区間に車線変更禁止区間の線を引くという方法を提案しました。これにより、隣の車線の車が車線変更禁止区間でお互いの存在を確認しながら交互に合流ができるようになります。実際に人を車に見立てて模擬的に車線変更を行った実験の映像では、車線変更禁止区間がある方が、譲り合いが行われ、すべての車が車線変更に要する時間が短くなりました。この譲り合いが起きることが合流において大事であると教えていただきました。
続いて、西成先生は坂道渋滞の解消方法についてお話くださいました。坂道は、渋滞が起こりやすい原因の第1位です。坂道の下り坂から上がり坂になる箇所をサグ(sag)といいます。坂道で渋滞が起きる原因はこのサグ付近で車間が詰まってブレーキを踏み、減速することです。これを踏まえたうえで、考えた解決方法としていくつか挙げられましたが、西成先生が考えた方法として「わざとゆっくり坂道に近づく」という方法を教えていただきました。これを行うことで、そもそもの原因だったブレーキを踏むということがなくなり、渋滞が解消されるそうです。これも西成先生は警察庁の協力のもと相模湖ICから小仏トンネルに向かう坂道で実験したところ、坂道で発生していた渋滞が車間をあけゆっくり走ったことで渋滞がなくなったことを確認しました。
これまでに西成先生が紹介した方法は「セルオートマトン」という学問に基づいています。これは、西成先生が作った学問で、車がいれば1、いなければ0と表すことで渋滞をシミュレーションします。西成先生がこれを用いて渋滞をシミュレーションすると、1が多く集まっているところ、すなわち、渋滞の場所が時間経過とともに後退していることを発見しました。この発見はテレビでも取り上げられ、フジテレビの「笑っていいとも!」で紹介されました。講義では、実際にその映像を見て渋滞が後退していることを学びました。また、実際にこのセルオートマトンを用いて学生は先生が出題した問題を解き、セルオートマトンの考え方を理解しました。
講義の最後には、西成先生が学生に伝えたい内容として、先生が新しい学問を作ったように今まで誰もやっていないことをやってみて欲しいと仰っていました。そこで、ショーペン・ハウエルの成功するまでの3段階について教えていただきました。誰もやったことのないようなことを始めると最初は周りに笑い物にされます。それを押し除けたとしても、次は周りから、邪魔を受けたり、反対にあったりします。それでも諦めなかったものは真似されますが、その頃には真似されるのも怖くないくらいその分野のプロになれると仰っていました。そのため学生にはまだ誰もやったことのないことに挑戦する場合、諦めないで最後までやり通すことが大事だと教えていただきました。西成先生が講義最後に伝えた「異端から先端へ」という言葉はこれから世界を担う学生らにとってとても重要で価値のあるお言葉でした。
学生の皆さんには、好奇心を常に持ち続けて、挑戦を恐れずに未知の分野を切り開いていってほしいと思います。
西成先生、第3回講義ありがとうございました!